「AIよって税理士の仕事がなくなる」
「10年後になくなる仕事ランキングに税理士があった」
なんて不安を煽る記事を見たことがある人もいるかもしれません。
AIの脅威が叫ばれている中で、税理士をこのまま目指して大丈夫なのか悩んでいる方もいるかもしれません。
確かに時間とお金をかけて税理士資格を取得しても、その時にはAIによって税理士の仕事がない…なんて未来だったら目指す気持ちが揺らぐこともよく分かります。
今回はAIによる税理士への影響や税理士の将来性
そして、AI時代に活躍する税理士になるために知っておくべきポイントを解説します!
AIの登場により税理士の仕事がなくなる??
オックスフォード大学などの調査結果では今後10〜20年の間で約半数の仕事が消える可能性があるとの研究結果が出ています。
「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」
そして本やメディアで消える職業として税理士が挙げられることもあります。
税理士の仕事は本当になくなってしまうのでしょうか?
未来のことを100%予想するのは難しいですが、現時点のAIの能力を考えると、AIにより税理士がなくなる可能性は非常に低いと考えられます。ただし、AIや技術革新の進歩によって税理士の働き方に改革は起こると考えられます。
税理士が消えた国
日本における税理士の未来について考える前に、他国の情勢について目を向けてみましょう。
皆さんはエストニアという国をご存知でしょうか。
エストニアは税理士や会計士がいなくなった国として知られています。
実際、現在も会計法人は存在し「完全に消滅した」ということではないようですが、今後の日本の税理士業界を予想するにおいて参考にしたいので取り上げます。
エストニア
北欧でバルト三国の1つ
人口は130万人(日本では言えば、さいたま市くらいの規模)
ITを行政に活用する「電子政府」を推進している「IT先進国」として有名
エストニアは税制を非常に簡素化し、誰でも簡単に納税できる納税システムの導入しました。
税制は非常にシンプルで、政府が全国民の預金残額を把握しています。
そのために課税計算は自動化で十分で、解釈や例外の余地はありません。
エストニアは課税計算の自動化と税制を簡素化により、税理士や会計士がいなくなったとまで言われました。
他国における自動化の例を見ると、日本も同様に自動化の推進で、エストニアのように税理士業務がなくなるのではと不安になります。
しかしながら、日本において税理士がゼロになることはないと考えられます。
日本でも税理士は不要か?
日本で税理士がゼロになるには、3つハードルがあります。
①全国民の預金残額の把握
②税制の簡略化
③人口が多く意思決定の難易度が高い
上記3つの中でも、税金の計算を全自動化するには①全国民の預金残額の把握と、②税制の簡略化が重要です。
①政府が全国民の預金残額の把握をするには、国民の反発は非常に大きいと予想されます。
預金残額は重要な個人情報です。預金残高の把握にあたり、情報流出の可能性があることに懸念を持つのは当然です。
②税制の簡略化について、日本の税制は所得再配分の役割があり、税制が複雑化です。
理想としては、税をシンプルなルールで徴収し、その後に給付金として再分配した方が、手間は軽減されます。
しかし、シンプルなルールへの変更は低所得者の反発が大きいと予想されます。
昨今、ベーシックインカムについて議論されることも多いです。反対派の意見として低所得者保護が上がりますが、なかなか国民を納得させるのは難しそうです。
ベーシックインカムについては下記の動画で実業家の堀江貴文さんと経済評論家の山崎元さんが分かりやすく解説しています。
ベーシックインカム反対派は誤解している?社会へ与える恩恵とは?【山崎元×堀江貴文】
③人口が多く意思決定の難易度が高いについて、
通常、意思決定するときに、一人で決断するより、二人で決断する方が難しく、
百人、千人と人数が増えていくほど、意思決定は困難になります。
エストニアと異なり、日本の人口はかなり多いです。
ですので、1つ目や2つ目のハードルを越える、政治的調整の難易度は非常に高いです。
以上の理由から、日本で税理士ゼロは事実上困難であると考えます。
ただし以前のように「税理士になれば安泰」と資格取得後に現状維持をしているだけでは厳しく、税理士業界も変化が求めらそうです。
税理士の働き方の変化を予想する上で、AIの得意分野と苦手分野を知ることが有用です。
AIの得意分野
AIの得意分野はとして、インプットしたデータに基づく単純作業があります。
実は既に税理士業務においてAIが活躍している分野も存在します。
・領収書の紙の情報を読み取り、自動で会計ソフトに取り込む機能
・銀行やクレジットカードと連携し、取り込まれた取引を自動仕訳する機能など
上記のような単純な事務処理や記帳代行業務は、AIの得意分野です。
入力の手間が減り効率化にもなりますし、人間が行うよりもミスを減らすことができます。
これらの業務効率化は会計ソフト主導で開発しているケースもありますし、ある程度リソースのある税理士法人では税理士法人独自で開発しているケースもあります。
特に大手税理士法人は、税理士の業務過多に陥っており、税理士だからこそ出来る専門性の高い領域に時間を使って欲しいという考えがあり自社で独自開発しているようです。高度な税務判断が不要な申告書作成の場合、帳簿から自動で申告書を作成し、税理士は最終チェックのみ行うケースもあります。
このようなことから、申告書作成や記帳代行などの業務についてはAI化により税理士の業務への関わりは減少することが想定されます。
AIの苦手分野
日本におけるAI研究の第一人者である東京大学大学院教授の松尾豊氏は長期的(15年以上先)における人が行う仕事として重要なものとして下記のように述べています。
1つは、「非常に大局的でサンプル数の少ない、難しい判断を伴う業務」で、経営者や事業の責任者のような仕事である。(中略)いろいろな情報を加味した上での「経営判断」は、人間に最後まで残る仕事だろう。
一方、「人間に接するインターフェースは人間の方がいい」という理由で残る仕事もある。(中略)最後は人間が対応してくれた方がうれしい、人間に説得される方が聞いてしまうなどの理由で、人間の相手は人間がするということ自体は変わらないだろう。むしろ人間が相手をしてくれるというほうが「高価なサービス」になるかもしれない。
出典:『人工知能は人間を超えるか-ディープラーニングの先にあるもの』 p.232より(松尾豊著、KADOKAWA/中経出版)
これは会計業界に限った話ではありませんが、AI化が進む世の中で価値を感じていただける人が行う業務としては記帳代行といった過去な膨大なサンプルをもとに行うものではないことがはっきりとわかります。
反対に、コンサルティングのような自由裁量の余地があり、人と人とのコミュニケーションが重視される業務はAI時代に価値を感じてもらえるサービスになりそうです。
コンサルティングは税務の知識にプラスして、わかりやすく伝える力、コミュニケーション能力やIT等の周辺知識が必要になりますが、税務だけにとらわれず他の分野の知識も付けることで、他の税理士との差別化を図り、付加価値の高いサービスを提供できるようになります。
そして人対人のサービスである以上、人間味のある温かい対応は強みになります。
AI時代に活躍できる方法を模索する際は、AIの苦手分野やAIが出来ない人間味のある部分を強みとするのもひとつの手です。
日本は少子高齢化で労働人口が減少するので、省力化が必須となります。
ですので、税理士も省力化、AI化を恐れるのではなく、技術を受け入れていく必要があります。
会計事務所で行われている業務の中で省力化が早いと考えられるのは、仕訳入力作業です。
仕訳入力作業は現時点でも一部自動化が進んでいますので、全自動化も近いと考えられます。
一方で税務相談などの対人業務、コンサルティング業務は、直近ではなくなることはないと予測します。
他の税理士と差をつけるためにも、省力化の技術は積極的に採用すべきです。
省力化により空き時間ができますので、その空き時間で付加価値向上を目指すべきだと考えます。
付加価値を向上して生き残る税理士になるために何をすべきかでしょうか。
AIに代わられない税理士になるには
AI時代に活躍できる税理士いなるためのヒントとして、大手IT企業の人材育成方法として使われているT型人材、Π型人材を目指すという方法があります。
I型人材は特定の分野に詳しい専門家です。
従来は1つの分野に特化した人材を育てることにより、技術の進歩を測ったり、効率化を高めたりする傾向がありました。
T型人材は1つの強力な得意分野を持ち、その周辺の知識や経験を抑えている人材です。
さらにΠ型人材はTにもう1本スペシャリティな分野を増やした人材です。
20年前であれば英語が堪能であればそれだけで重宝されましたが、現在ではさらにIT知識やマーケティングも出来る人材がより活躍できるようになりました。
以前の税理士はI型人材、税務の知識1本で十分活躍することができました。
しかし時代が加速化し先のことが予測できない時代においては、希少価値のある人材こそ重宝されるのではないでしょうか。
例えば、税理士は全国におよそ8万人います。
日本の人口は約1億2500万人いますので「税知識」においてはまず全国民の上位0.06%になることができます。
どの分野でも「好きなこと」を努力し磨いていけば、全国民の上位1%になることは可能です。
例えば、税理士と、好きな分野2つを掛け合わせるだけで、国内8名のみの独自性のある存在になれます。
これからの時代、1つの得意分野で戦ってはいけません。
なぜなら上には上がいるからです。3流では困りますが1.5流を組み合わせることで、自分だけの独自性、付加価値のあるサービスを提供できるようになります。
税理士業界が抱える課題
ここまで税理士が消えることはないが、働き方は変わることについてお話ししました。
これから先は現状維持ではなく時代にあった変化を続けていく必要があります。
その上で、今の税理士業界が抱える課題についても知っておきましょう。
1、税理士の高齢化
2、税理士受験生の減少による売り手市場化
1、税理士の高齢化
税理士の資格は一生涯保有することができ、独立していれば会社員のように定年はありません。
つまり、健康で働ける限り現役で税理士として活躍することができます。
しかし裏を返すと、定年がないというのが、税理士業界の高齢化につながっています。
実際、税理士の平均年齢は約60歳、
税理士の2人に1人が60歳以上という超高齢化が起こっています。
高齢化が進むことにより、事務所の後を継いでくれる人がいないという、後継者問題や事業継承問題が既に顕在化しています。
2、税理士受験生の減少による売り手市場化
税理士業界では高齢化とともに税理士受験生の減少も起こっています。
ここ5年で受験者は1万人以上も減っており、特に20代・30代の減少が顕著です。
若手の受験生が減っていることからも、税理士受験生の減少要因として「税理士はAIによって仕事を奪われる」という不安を煽るメディア等での報道も要因として考えられます。
このような高齢化、そして若手受験生の減少から税理士業界は若手の税理士を熱望しています。
税理士業界は人手不足を抱えており、就職・転職市場は売り手市場です。
一般的に転職が難しくなると言われる30代でも税理士業界では超若手となります。
そして、税理士の高齢化もあり、10~20年後の税理士の需要は今以上の予想もされます。
AIや時代の変化とうまく付き合える方であれば、今後の税理士としての活躍は日増しに高くなっていくと言えるでしょう。
税理士の将来性まとめ
日本における税理士ゼロは事実上難しい
AIの活用で業務を効率化できる
T型人材、Π型人材で付加価値のある税理士になる
税理士業界は売り手市場で特に若手は歓迎される
人口減少する日本にとって「省力化は正義」で避けては通れない道です。
AIは税理士業務を奪うものではなく、税理士の業務効率化に役立つツールです。
時代の変化に合わせ税理士の働き方も変わっていきます。
自分のキャリアを大きく前進させたいという方は、是非一度取得を検討してみてはいかがでしょうか。